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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)4315号 判決

甲事件原告

李福萬

ほか二名

乙事件原告

李福太郎

甲乙事件被告

株式会社キャリアトツプティケィ

ほか一名

主文

一  甲乙事件被告らは連帯して、甲事件原告ら、乙事件原告に対し、各金二四一万二三二〇円及び各内金二一九万二三二〇円につき平成二年一〇月二四日からいずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  甲事件原告ら、乙事件原告の甲乙事件被告らに対するその余の各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は甲乙事件を通じてこれを七分し、その三を甲乙事件被告らの負担とし、その余を甲事件原告ら、乙事件原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一甲事件原告ら、乙事件原告の請求

一  甲事件

1  主位的請求

甲乙事件被告ら(以下「被告ら」という。)は連帯して甲事件原告らに対し、各金五七九万八六九七円及び各内金五五六万五三六四円につき平成二年一〇月二四日からいずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  予備的請求

被告らは連帯して甲事件原告李福壽(以下「原告福壽」という。)に対し、金二二九六万一四五七円及び内金二二二六万一四五七円につき右同日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件

被告らは連帯して乙事件原告(以下「原告福太郎」という。)に対し、金五七四万五三六四円及び内金五五六万五三六四円につき右同日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、甲乙事件被告元(以下「被告元」という。)が甲乙事件被告株式会社キヤリアトツプテイケイ(以下「被告会社」という。)の所有する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)を運転して信号機の設置されていない交差点を通過しようとした際、交差道路から自転車で走行してきた張封烈(以下「亡張」という。)と衝突し、亡張が死亡した事故について、甲事件原告らと乙事件原告(以下「原告ら」という。)が亡張の相続人であるとして、被告元に対して民法七〇九条に基づき、被告会社に対して自賠法三条、民法七一五条に基づきそれぞれ損害賠償を請求したものである(甲事件については原告福壽に全額の支払を求める予備的請求を含む。)

一  争いのない事実等

1  交通事故の発生

日時 平成二年一〇月二四日午後五時四五分ころ

場所 大阪市都島区御幸町二丁目三番一七号先路上

態様 被告元が被告車を運転して南から北へ進行中、進路前方を東から西に自転車で横断しようとした亡張と衝突し、亡張が死亡した。

2  被告車の所有関係、被告元と被告会社との関係

被告会社は、被告車の所有者であり、被告元の雇い主である。

3  損害の填補

被告らは原告らに対し、二五七万九八一一円を支払つた(以上につき原告らと被告らとの間に争いがない。)。

4  相続関係

原告らは、亡張の権利義務を各四分の一の割合で相続した(甲六ないし九、丙一ないし三、原告福壽、原告福太郎各本人)。

二  争点

1  損害額(逸失利益、死亡慰謝料、葬儀費、弁護士費用)

2  過失相殺(被告らは、被告車の走行していた道路が優先道路であり、亡張が一時停止義務に違反した点で亡張に五〇パーセントの過失があると主張する。これに対して、甲事件原告らは、本件事故の原因は、被告元の前方不注視と時速二〇キロメートル程度の速度超過によるものであり、また、亡張が本件交差点に先に進入していたと主張する。)

第三争点に対する判断

一  証拠(甲一、二、検甲一ないし九、乙一ないし六)によれば、以下の事実が認められる。

本件事故現場は、南北に伸びるセンターラインのある車道部分の幅員が約六・七メートルの片側一車線の道路(以下「南北道路」という。)と、東西に伸びる車道部分の幅員が約五・七メートル(南北道路より西側部分の幅員は約三メートル)の道路(以下「東西道路」という。)とが交差する交差点内である。本件交差点の南東角付近には、高さ約二メートルのトタン板塀が設置されているため、南北道路を本件交差点に向かつて北進してくる車両からは、本件交差点右方の見通しが悪くなつている。また、南北道路の車道部分の両側には、幅二メートル程度の歩道が設置されている。南北道路のセンターラインは、本件交差点内を通過しており、本件交差点東詰の東西道路側には、一時停止の標識が設置されている。本件事故現場付近は、平坦なアスファルト舗装で、本件事故当時、路面は乾燥していた。本件事故当時、被告元は、被告車を運転して南北道路の北行車線を時速約四〇キロメートルの速度で前照灯を下向きにして北進し、本件交差点の手前に差しかかつた。その際、被告元は、進路前方を見ていたものの、本件交差点の左右に対する注視が不十分なままで、本件事故現場の南側約一二・五メートルの地点に差しかかつたところ、本件交差点内を東から西に向かつて通常よりもやや速い速度で西進する亡張の自転車を進路右前方約一二・九メートルの地点(本件交差点内の南北道路の南行車線上)に発見し、急ブレーキをかけたが間に合わず、南北道路の北行車線の中央付近で、被告車の前部が自転車の左側面に衝突した。右衝突後、被告車は、右衝突地点から約三・四メートル進行して停止し、亡張は、右衝突地点から約九・四メートル北側の地点に転倒した(なお、甲事件原告らは、本件事故当時、被告車が制限速度を約二〇キロメートル超過した時速約五〇キロメートルの速度で進行していたと主張するが、被告元が亡張の自転車を発見してから衝突するまでの間に、右自転車が約三メートル進行しており、右発見から衝突までの時間は、自転車の進行速度からすると一秒程度であると解され、また、その間に、被告車は約一二・五メートル進行しているが、本件事故当時、被告車が時速四〇キロメートルで進行したとすると、被告元が自転車を発見してから衝突するまでの時間は、一・一二秒程度であることになつて、被告車が時速約四〇キロメートルの速度で進行していたとしても、本件事故が発生する可能性があると解されるうえ、被告車が右衝突地点から約三・四メートル進行して停止していることをも考慮すれば、本件事故当時、時速約四〇キロメートルの速度で進行していたとする被告元の捜査官に対する供述調書の記載内容は信用できるというべきである。)。

二  損害

1  逸失利益 三六九万八一八三円(請求五一七万七四五七円)

亡張は、大正一五年八月二〇日生まれ(本件事故当時六四歳)であり、本件事故当時、健康であつた。また、亡張は、本件事故の約七年前から一人暮らしをし、家賃収入と、子供らからの援助で生活していた(甲九、原告福壽、原告福太郎各本人)。そうすると、亡張は、本件事故当時、平成元年賃金センサス女子労働者学歴計六〇歳から六四歳の平均年収二七〇万八三〇〇円の収入を六七歳までの三年間(中間利息の控除として新ホフマン係数二・七三一を適用)にわたつて得る高度の蓋然性があつたと解される。また、亡張の右生活状況からすると、亡張の逸失利益の算定に関しては、その生活費として五〇パーセントを控除すべきである。

そうすると、本件事故と相当因果関係のある逸失利益は、三六九万八一八三円(円未満切り捨て、以下同じ。)となる。

2  死亡慰謝料 一八〇〇万円(請求同額)

前記二1(逸失利益)で認定した亡張の身上関係、本件事故態様、その他一切の事情を考慮すれば、亡張の死亡慰謝料は、一八〇〇万円が相当である。

3  葬儀費 一〇〇万円(請求一六五万四〇〇〇円)

亡張の葬儀費として葬儀業者に一六五万四〇〇〇円を支払つた(甲一〇、原告福壽本人)。右事実に、前記二1(逸失利益)で認定した亡張の社会的地位、身上関係、その他一切の事情を考慮すれば、本件事故と相当因果関係のある葬儀費としては、一〇〇万円が相当である。

4  弁護士費用 各二二万円(甲事件原告らの請求七〇万円、原告福太郎の請求一八万円)

原告らの各請求額、前記各認容額、その他本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、弁護士費用としては、原告らにつき各二二万円が相当である。

三  過失相殺

前記一で認定した本件事故状況によれば、被告元は、本件事故当時、交差道路の右方を十分注視することなく、制限速度を約一〇キロメートル超過した速度で被告車を運転していたものであり、他方、亡張が進行していた東西道路側には、一時停止の標識が設置されており、また、本件交差点では、南北道路が優先道路(道路交通法三六条二項)であるから、亡張は、被告車の進行妨害をしてはならないのに、自転車に乗り、通常よりもやや速い速度で本件交差点内に進入して本件事故を発生させていることの諸事情を考慮すれば、本件事故発生について、被告元と亡張には、それぞれ五〇パーセントの過失があるといわなければならない。そうすると、二二六九万八一八三円(前記二1ないし3の損害合計額)に右過失割合を適用した過失相殺後の金額は、一一三四万九〇九一円となる。

四  以上によれば、原告らの被告元に対する民法七〇九条に基づく請求、被告会社に対する自賠法三条に基づく請求は、各二四一万二三二〇円(前記過失相殺後の金額一一三四万九〇九一円から前記争いのない損害の填補額二五七万九八一一円を控除した八七六万九二八〇円について、原告らの相続分である各四分の一を適用した各二一九万二三二〇円に、前記二4の弁護士費用各二二万円を加えたもの)と各内二一九万二三二〇円(前記二4の弁護士費用を控除したもの)につき本件交通事故発生の日である平成二年一〇月二四日からいずれも支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 安原清蔵)

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